日本の学生は、自分自身の考えを論理的、客観的な方法で組み立てていくことことが苦手だと言われています。
そのようなことになってしまう原因の一つとして、小学校や中学校の教育が、知識習得型の受け身の教育が主流となってしまっており、こどもが自ら問題を発見し、その解を導き出すための様々な方法を自分で考えるといった思考訓練がしっかりと出来ていないことがあげられます。
これからの社会で必要とされるスキルの研究は、米国で始まり、現在では、欧米、そしてアジア各国へと広がっています。
このような世界的な流れを受け、文部科学省も2013年に「21世紀型能力」を提案しました。
これまでの知識習得型の受け身の教育から、“自ら考え、判断し、行動できる人材”を育成するように、日本でも大きく教育が転換されようとしています。
その中では、考える力、コミュニケーション能力に重点をおき、体験的な学びが大事であるということを強調しています。
今回はそのあたりに焦点をあてていきたいと思います。
目次
“批判的思考力”とは
これからを生きていくこどもたちに必要なスキルとして、上述の文部科学省が提案している「21世紀型能力」の中に、“批判的思考力”というものがあります。
“批判的思考力”とはいったいどのような能力のことでしょうか。
文字から受ける印象では、対話や議論する相手を批判する為の思考力のようにも感じられますが、全くそうではありません。
一言でいうと、「問題に対して、確かな証拠に基づいて、自分だけの視点ではなく、客観的・多面的、そして理論的・科学的に考える力」ということです。
“批判的思考”は、英語の「クリティカル・シンキング」を訳したものですが、訳語から感じる印象と実際の内容との間には少し違和感を感じます。
私たちはどうしても自分の考えが正しいと思いがちですが、そうならないように自らを省みて、偏りのない柔軟な思考力を身に付けなければなりません。
それは、自分自身の思考を吟味することに他なりません。自らを客観的にとらえて、どのように思考・行動すればよいかを建設的に考えることが批判的思考の重要な要素なのです。
これは、「自ら学び自ら考える子を育てる」の記事で書いた「メタ認知力」に他なりません。
「メタ認知力」とは、少し高い視点から俯瞰的に自分自身を眺められる能力のことです。
この他、“批判的思考力”に必要な要素として、他人の意見に耳を傾け、例え意見が異なる場合でも協力して問題を解決できるような、「コミュニケーション能力」や「意見をまとめる力」があげられます。
「主体的な学び」を養う
“批判的思考力”を養う目的は何でしょうか。
それは、必要とする情報を、証拠に基づき正しく読み取り、他人に正確にそれを伝え、例え自分とは考えの違う人の意見であっても耳を傾けながら適切に問題解決のために行動できる力を養うためです。
このような能力はどのようにして養うことが出来るのでしょうか。
OECD(経済協力開発機構)が国際的に実施する「生徒の学習到達度調査」、(通称PISA)の結果から、そのヒントが読み取れるかもしれません。
PISAは、この調査の中の項目である「読解力」を以下のように定義しています。
「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれた文章を理解し、利用し、熟考する能力」
そのため、文章についての評価や批判が求められる「自由記述問題」が読解力の問題として出題されているのです。
これは、クリティカル・シンキングの基礎がどの程度養われているかが問われているのです。
OECD各国の平均点と比較すると、日本のこどもは「自由記述問題」が不得意であることが結果に表れています。
日本のこども達は、自分の意見を問われるような自由記述問題は、学校等で出題されることが少なく、慣れていないため、どう答えてよいのかがわからず、回答率が低いのだと予想されます。
PISAにおいて、この「自由記述問題」を比較的高い得点を獲得したこども達には、学習に関して以下のような傾向があることが、調査の結果わかっています。
- 学習方法を色々考えて試してみる
- 学習の際に知識のつながりを意識し、重視する
- 問題に対する解答の、結果だけでなく思考過程を重視する
- さまざまな知識や情報を求める 「探究心」が強い
常日頃から、学習に対して上記のような態度で臨む心構えが必要ですが、これは一朝一夕には養うことは難しそうです。
ただ、これらの心構えは”「主体的な学び」のために出来ること“の記事で書いた能力に他なりません。
その中でも書きましたが、こどもの「主体的な学び」を養うためには、以下のような取り組みが必要となります。
- こども自身が学ぶ意義を理解し、難しいと感じる場合でもそれを自ら乗り越えられるような動機付けが必要。
- 外発的な動機付けではなく、内発的動機づけが望ましい。
- 何故学ぶのかということを意識し、段階的に目標を立てて達成させることが必要。
短期的に結果が出る内容ではありませんが、親子ともども時間をかけてじっくり取り組む姿勢が重要です。
今回のまとめ
日本のこどもたちは、世界の他の国々のこどもと比べ、自分で深く考え、その考えを理論立てて説明することが相対的に苦手であるという結果がでています。それは、これまでの学校の教育が、知識習得型の受け身の教育が主流となってしまっており、こどもが自ら問題を発見し、その解を導き出すための様々な方法を自分で考えるといった思考訓練ができていないことに他なりません。
これらの能力は、自分自身の思考を吟味することに他なりません。自らを客観的にとらえて、どのように思考・行動すればよいかを建設的に考える、”批判的思考”が重要となります。一朝一夕に養える能力ではありませんが、常日頃から気を付けておくべきことはあります。要点を以下にまとめます。
- これまでの知識習得型の受け身の教育から、“自ら考え、判断し、行動できる人材”を育成するような教育が必要。
- “批判的思考力”とは、「問題に対して、確かな証拠に基づいて、自分だけの視点ではなく、客観的・多面的、そして理論的・科学的に考える力」ということ。
- 自らを客観的にとらえて、どのように思考・行動すればよいかを建設的に考えることが批判的思考の重要な要素。
- 日本のこども達は、自分の意見を問われるような自由記述問題は、学校等で出題されることが少なく、慣れていない。
- “批判的思考力”を養うためには、「主体的な学び」の姿勢が必要。
ご参考になさってください。
参考文献
国立教育政策研究所:https://bit.ly/3kfFY3h
ベネッセ教育総合研究所:https://bit.ly/3qHkYVp
東洋大学学術情報:https://bit.ly/3pGqBlF
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